Kikoh Matsuura | The Verse of Becoming





Created in 2025
|Overview

感情が揺れ、思考がめぐり、創造が立ち上がる。
この連なりは、私だけの営みではなく、数十億年にわたり紡がれてきた生命の連鎖の中で育まれた現象である。
私はアーティストとして、自らの創造性の起源を探るため、身体の奥深く――遺伝子という生命の記憶の書庫へと向き合った。
そこに刻まれていたのは、生命の進化の中で培われ、人類に共通する配列と、私だけがもつ微細なゆらぎであった。

本作は、私自身のエクソーム解析にもとづき、感情・思考・創造性に関わる複数の遺伝子を選び出し、それらに由来するアミノ酸配列を透明なアクリルに彫刻したものである。変異のある部位は反転文字として浮かび上がる。それは欠陥ではなく、私という存在をかたちづくる固有の響きである。刻まれた配列は、生命の記憶を映す断章であり、同時にアーティストとしての私を綴った自叙詩でもある。





|Statement

私はときに、他者と自分を重ね、歪みや欠如のような感覚を抱くことがある。
けれど、その揺らぎは、否定すべき欠陥ではなく、「私」を私たらしめるもの。

それは遺伝子に刻まれた微細な変異でもあり、生命の記憶の中に宿る「個」の証だ。
そしてその揺らぎは、私だけのものではなく、生命という存在に通底する響きでもある。

本作は、その揺らぎを通して、言葉にならないまま漂う「私であること」の意味を見つめようとする試みである。

|Technical Description

本作に用いられている遺伝子情報は、作家自身のエクソーム解析にもとづいている。エクソーム解析とは、ヒトの全ゲノムのうち、タンパク質の設計図となる「エクソン」と呼ばれる領域(全体の約1〜2%)を選択的に解析する手法である。エクソンには、身体の機能、性質、そして個性の形成に関わる機能的に重要な変異が多く含まれていることが知られている。抽出された遺伝情報は、アミノ酸配列として解読される。アミノ酸はタンパク質を構成する基本単位であり、生命活動を支える根源的な要素である。タンパク質は細胞や器官の構造を形づくだけでなく、神経伝達や記憶・感情の形成など、思考や内的体験にかかわる生体機能にも深く関与している。
| Reference Material

▪️ The Verse of Becoming — Genetic Structure
[ Download PDF ]


| Supplementary Data

▪️ The Verse of Becoming — Exome Variant Dataset (XLSX)
[ Download XLSX ]